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広島高等裁判所岡山支部 昭和26年(う)712号 判決

控訴人 被告人 菊旦尚基

弁護人 坂本方一

検察官 円藤正秀関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役十月に処する。

但しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人坂本方一提出の控訴趣意書記載の通りあるからこれを引用する。

第一点の1と3について

原審が所論のように弁護人申請に係る検証を実施するに当り沢木鐐三を立会わせ、その供述を同検証調書に録取していることは、本件訴訟記録に徴して明らかであるが、同立会人の右供述は、検証の手段として一般に認められる目的物の指示陳述の域を出でず、独立の証言事項に関する供述とは認められないから、証人尋問の手続に依ることを要しないし、また反対尋問の対象とせられるべきものでもない。

原審が右供述を求めるについて、所論の手続を践まなかつたとしても、また同供述の記載せられてある検証調書を事実認定の資料に供したとしても何等法令の違反はない。

つぎに原判決が所論のように、藤長藤八の司法巡査に対する供述調書を証拠として採用していること及び同調書の内容に右藤長の直接体験した事実に関する供述の外に、岡村忠一より伝聞した事実に関する供述をも含んで居り、またその供述に一部食い違いのあることは、原判決竝びに前記供述調書の記載によつてこれを認めることができるが、右伝聞供述の記載を含む同調書を証拠とすることについては、被告人も弁護人も何等の制限をも加えず完全に同意しているのであつて、右同意は、同調書の供述者である藤長藤八のみならず、原供述者である岡村忠一に対する反対尋問の権利をも併せて放棄したものと認めるのが相当であるから、これを採つて事実認定の証拠としたからといつても毫も伝聞法則の禁止に触れるものではない。また弁護人所論の「供述内容の食い違い」の如きも、未だ以つて同調書の相当性や証明力を失わせる程度のものとは認められずなお原判示第二の事実の証拠としての適格を備えているものであるから、右供述調書を証拠とした原判決には、所論のような法令違反も理由の食い違いもない。よつて以上の論旨はいずれも理由がない。

第一点の2について

訴訟記録竝びに原審において取調べた証拠を綜合すれば、被告人が窃取した本件ギボールトシヨイントは、所論の如く、工事完成前その計画を放棄して、未使用のまま原判示組合によつて管理せられていた水道管に取り付けてあつたものであることを認めるに足り、原審にこの点に関する審理不尽はない。なお弁護人は、本件ギボールトジヨイントが現に使用中の水道管に取り付けてあつたもののように認定した原判決には事実の誤認か若しくは理由の不備があると主張するが、原判決には所論のような認定は含まれていない。よつて本論旨もまた総て理由がない。

第二点について

本件記録を調査し、所論の各事情を斟酌すれば、原審が本件につき被告人に懲役十月の実刑を言渡したのは、量刑重きに失すると認められるのでこの点に関する論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条、第四百条但書の規定に従いつぎの通り自判する。

原審の認定した事実を法律に照すと、原判示第一の事実は刑法第二百三十五条に、同第二の事実は同法第二百四十三条、第二百三十五条に各該当し、右は同法第四十五条前段の併合罪の関係に立つので同法第四十七条、第十条により、犯情の重い第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役十月に処し、情状により同法第二十五条を適用しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予するものとする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 植山日二 判事 林歓一 判事 幸田輝治)

弁護人坂本方一の控訴趣意

第一点3一審判決には手続上の違法乃至理由に齟齬がある。原判決は藤長藤八の供述(二六丁)を採用して居るがその内容は友人岡村忠一の話を聞いたことを供述して居り即ち伝聞であり又その説明するところは起訴状第一事実の点について供述するのかと思えば第二事実の点の如くでもありその記載内容は首尾一貫せず理解に苦しむ不合理あり一審が之れを採用して判決して居ることは手続上では伝聞証拠を採用した違法あり内容的には理由に齟齬がある。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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